ブランド作りとファン作りの原理原則~枻出版社×アソビュー トップ対談レポート~vol.3

REPORT

アソビュー社では月に一度、外部の企業のトップをお招きし、代表の山野と対談を行う「ヤマトーク」を開催しています。

毎回さまざまなテーマで、その企業が歩んできた道、そしてアソビューの社員へのアドバイスをいただき、社員にとってはとても貴重な学びの機会となっています。

今回は、先日当社との資本業務提携を発表した枻(エイ)出版社 代表取締役社長 角(すみ)謙二氏をお招きした際の対談内容を、3部構成の書き起こし形式でレポートします。

vol 1: https://www.asoview.co.jp/blog/2254/
vol 2: https://www.asoview.co.jp/blog/2256/

山野: ここで僕からだけではなく会場に移りたいと思います。誰か質問ある方?

会場: 雑誌を作る上でのこだわりが伝わりました。一方で新しい雑誌を作るってなったときに、売れないとビジネスにならないとも思います。マーケティングはどのようにされているんですか?

角: よく聞かれます。皮膚感覚。

山野: といいながら、実は僕違うなと思っているんですが、スキューバダイビングの雑誌を絶対にやらないのって、結構市場のことを認識して…

角: それも皮膚感覚ですよ。

山野: なるほど。ご自身が好きだから、市場の肌感覚が分かるってことですか。

角: そうです。業界のことって大体分かってますから、成立しそうか、しそうにないかって大体想像つくんですね。

マーケティングと言って、出てきた数字を当てにして、やって成功することってないんですよね。それよりは自分たちが自信を持って、ここには絶対にマーケットがあるって思うことの方が重要です。

その考えを持ち、取次に一番「すみません、僕達が間違ってました」って言わせたのが、「RETRIEVER」っていう雑誌なんですよ。

レトリバーの単犬種で本作りますって言って、売れる訳無いだろうと言われたんです。

山野: 一犬種で本作ったんですね。

角: ええ、未だにそれは持ってますよ。

山野: 取次は謝ったんですか?

角: ええ、なぜかと言うと納品して1週間で完売したから。レトリバーの一犬種って、すごく狭いカテゴリに見えるかもしれないけど、実際に後ろ側に深い世界があるんですね。それを見つけられるかどうかが面白いところ。

じゃあなぜ、レトリバーって言う本をやったかと言うと、僕が飼っていたからなんですね。自分が読みたい本が、例えば2ページしかなかったら買わないじゃない。愛犬のレトリバーのページが2ページじゃ買えないですよね。

それが一冊まるごとレトリバーだったら、もう気分としては「はい、あなたの物ですよ」と言われてる気になりますよね。そうじゃない人は買ってくれなくて良いわけですよ。

我々は渋谷のスクランブル交差点に面したところにお店を開いて、沢山人が通って、その何割かが買ってくれたらいいねっていう商売はしたことがないですよ。

裏道に来た人に「これあなた好きでしょ?」って渡してあげるイメージ。そんな感覚です。

逆に言うと、「わぁ私にこんなにピッタリなもの作ってくれてありがとう!」って言われるようになる訳ですよ。

会場: であれば、誰かが新しい雑誌を作りたいってなったときに、会社として意思決定される一番重要な要素っていうのは、その人が想い入れを持ってやるかどうか、ということでしょうか?

角: はい、そして僕らの経験を元に、本人にいろんな質問をしていきます。逆に、「それをやるんだったらこのネタ入れなきゃダメだぞ」とか、空気を入れてあげることも多いです。

みんな驚くのが、それこそ「海水魚の本作りたい」って言うときに、「海水魚だったらこうだろ」って言うとね、なんでそんなに知ってるんですかって話になるんです。

それは僕が好奇心があるから。色んなところで色んなものを見ている訳なんですよね。友達で海水魚が好きな人がいるとすると、いっぱい取材しているんです。そしたら何がキモかって、大体分かるんですよね。

山野: 自分がユーザーであり、顔の見える誰かのニーズを1番把握出来ている状態にあるってことですよね。他、質問ある人いますか?

会場: はい。読者の立場に立って雑誌を俯瞰して見るときに、最も突き詰めている、こだわっているポイントがあればお伺いしたいです。

角: その雑誌の性格がありますよね。例えば「ライダースクラブ」っていう雑誌だったら、”オートバイのパフォーマンスをいかに発揮するか”ってことがテーマの雑誌なんです。

でもオートバイ好きにも色々あって、お金をかけずに楽しみたい人達もいる。逆に、お金はいくらかけても良いから、できる限りパフォーマンスを上げたいって人達もいる。

ターゲットを誰にするかをしっかり抑えないといけないですよね。

皆さんもそこを間違ってはいけないと思います。全部同じにしてしまうと、「なんだ、分かってないな」になってしまうんです。

ユーザーが求めている深さに合った企画をしているか。それが全然違っていると、次第に見られないものになってしまう。

だから人よりも知っていないといけない。そしてプロになればなるほど、アマチュアの分からないことを、ここだよねって簡単に教えられるようでないといけない。「俺これだけ知っているんだぞ」ってやってたら、読者が離れてしまうんです。そこの頃合いが難しい。

会場: 距離感が、ですかね。

角: そう、距離感が。ただ、今どんどん変わってきたのが、『先生』じゃダメなんですよ。『隣のよく知ったお兄さん』くらいが丁度良いんです。

そのくらいの距離感でものを伝えてあげると、みんなスッと入っていく。そのように変わってきている。

山野: 色んなサービスを俯瞰して見ていると、たしかに流行っているサービスで『先生』的に教えているものってないですね。隣にいそうなあの子のような。恐らくインスタグラマーとかもそうで、実際に影響力があるのってフォロワー10万人よりも、1万人くらいの子みたいな。AKB48とかもそうじゃないですか。そういう時代になっていますよね。

角: だからすごく気をつけますよね。偉そうになっていないか?って。

山野: 次いますか?

会場: はい。趣味にお金を使える世代って、これから年を取っていくと思うんですね。その半面、若い世代は物理的にも減って行きますし、趣味にお金を使わない、もしくは趣味を持たないっていう人が増えて来ています。

そうした中で『趣味』に関する本の未来に、何か社長として漠然とした考えがあるのかっていうところ。あと単純に若い人はなぜ趣味を持たなくなってしまったのか、どうお考えでしょうか。

角: 趣味を持たなくなった最大の理由は、将来への不安なんでしょうね。

あとはバーチャルの世界で時間が潰せる。僕は特に男性に言いたいよね、「もっとリアルに遊んでくれ」って。

今山登りをしていて、1人で歩いているのって女の子なんですよね。女の子達の方が力強く、1人でテント背負って山の中に泊まる。

男はいないんですよ。いるとしたら、男3人組なんですよ。(会場笑い声)これ海外旅行もそうじゃないですか。男の海外旅行と言ったら大体2人か3人なんですよ。女の子は1人旅してるんですよ。我々の時代は逆でした。

次第に男の子達が、ドキドキ・ハラハラすることに対して興味がなくなって来ていることに対して、すごくヤバイなと思います。

その要因として、我々がその楽しさを伝え切れていないのかな、とも思うんですね。

趣味の世界が段々と小さくなってくるよねって言うのは、確かにその通りかもしれないんですけど、僕らが対象にしている読者って言うのは、別に30万人じゃないんですよ。

今、専門誌で言うなれば、極論言うと3万部売れば十分ビジネスになる。全国で3万人いれば良いと思えば、まだまだいけるかなって思うんですよね。

数は少ないかもしれないけども、その世界に入った人をより深くハマらせてやる、ってことが我々の仕事だと思ってますから。

若い子達がまず最初に『ハマる』きっかけになることを提供できていないというのが自分達の反省でもあるんですけど、、趣味を通して思い出が深まり、良い仲間が増えるような手伝いができたら良いなって思ってますね。
山野: はい。それでは次いますか?

会場: アソビューと資本提携をして、今後一緒にお仕事をさせていただくことになりますが、アソビューを選んだ理由は何ですか?

角: あのね、1番はね、山野さんだからだよ。

山野: (嬉しそうにお辞儀)

角: 1番大事なことって、感覚的に合うか合わないかってあるじゃない。

どんなに優秀で、どんなに素敵な人だろうが、一緒に仕事をするのは違うよなって。この人は絶対良い人だけど、結婚はしないだろうなってあるじゃない(笑)(会場笑い声)あるんだよ、そういうことが。

それと同じで、仕事をするときにどういう人と組むかって、会っていくうちに段々と分かり合えることって、実はあんまりないと思っていて。営業やってる人は分かると思うけど、会った瞬間にこの人とは上手くいく、いかないって感覚的に分かる。

で、合わない中どうやって話そうか考えるのも大切なんだけれど、合わないなら人を変えてしまった方がいいんだよね。極論言うと。

それで言うと、山野さんを見て、1番最初の印象で、『彼とだったら何か良いこと出来るんじゃないかな』って。まず自分にとってのひらめきみたいなものを大事にする。

あともう1つは、皆さんに新しいことにチャレンジして欲しい。自分達だけで出来ないのであれば、一緒に組んでやった方がいいと思う。もう本当にそう言うことですね。答えになってますか?

山野: はい、1時間と20分ですね、本当にありがとうございました。

最後のお話に僕から少し補足したいのは、よく『トップ商談』っていって、トップ同士が話して、合う・合わないを判断することってあると思うのですが、トップの立ち振舞って実は、従業員が決めてることって結構あると思うんですよ。

僕が評価していただいたというよりも、我々の姿勢が、僕の立ち振舞に繋がっているという事は、皆で共通認識を持ちたいなと思いました。

最後に僕から1つ、今回の協業による成果をどのように期待して下さっているか、構想も含めてですね、教えていただきたいと思います。

角: 一緒にオリジナルの商品を開発していけるようになりたい、ってのはすごく思います。僕らがやりたいと思っていることと、アソビュー社としての次のステップに繋がるんじゃないかなと。出来るだけ自前でやった方がいいと思うんですよ。

山野: そうなんですよね。

角: 雑誌を作ることと同じですが、自前の方が、会社としての『カラー』を1つにできる。

アクティビティを紹介するにしても、自分達が責任を持って「これなら満足できるでしょ」っていうものを、いかに沢山持っているか。自信を持って、我が事のように、『おせっかい』になることが大事なんじゃないかなって思うんですよね。

山野: 我々と一緒にやっていくもの、がスタンダードになっていたら嬉しいですよね。流行ではなくて、30年続くものが作れると嬉しいですよね。

お忙しい中来ていただきました、角さんに大きな拍手をお願いします。

(拍手)