ブランド作りとファン作りの原理原則~枻出版社×アソビュー トップ対談レポート~vol.2

REPORT

アソビュー社では月に一度、外部の企業のトップをお招きし、代表の山野と対談を行う「ヤマトーク」を開催しています。

毎回さまざまなテーマで、その企業が歩んできた道、そしてアソビューの社員へのアドバイスをいただき、社員にとってはとても貴重な学びの機会となっています。

今回は、先日当社との資本業務提携を発表した枻(エイ)出版社 代表取締役社長 角(すみ)謙二氏をお招きした際の対談内容を、3部構成の書き起こし形式でレポートします。

vol1:https://www.asoview.co.jp/blog/2254/

山野: 面白いですね。ちょっと今日はですね、インタラクティブに始めたいって思ってまして、会場から質問を集めたので、どんどん振りたいんですが、ちょっと一つだけ。

『角さんがカッコイイと思っている物、それは出来ればブランドとか会社とかってどこですか』って質問くれた人がいて、僕もそれ聞きたいって思ったんですけど、ありますか?

角: やっぱりどこをとってもコンセプトが曲がっていないというか、どこを切っても金太郎飴のように、ああやっぱこうだよね、ああやっぱここだよねってなってるところはいいですよね。

例えばの話がドイツのメーカーって厳しいですよね、その辺が。

BMWと仕事をしてたりすると、やっぱりね、どこを切ってもBMWなんですよ。
それが物凄く頑固なくらいBMW。ドイツのメーカーってそうゆうところありますよね。

山野: ブランドですよね、BMWって少なくとも。

角:うん、やっぱりそうゆうことをやってるところはカッコいいと思います。あとは例えば、どうでしょう。Appleみたいなのはカッコイイと思います。僕らね、もう30年前くらいからApple使ってるんです。

山野: 会社でですか?

角: はい。

山野: 全員パソコンがですか?

角: 昔は編集も全員Macだったんですよ。で、その当時のMacを編集1人に買い与えると大体1台あたり70~100万円かかりました。

しかもその当時はですね、1枚のデザインが出来上がるのにすごく時間がかかる時代だった。だけどみんな新しい物が好きだから、Macだろうって言って。

うちの上層部含めた社員はみんなMacが好きだし、ビデオはベータなんですよ。これね、共通しているんです。みんなベータなんです。

山野: そうゆうところからも姿勢が継続されているっていうか、金太郎飴なんですね。

角: ええ、そこに色んな人はいないです。

山野: あと今の話の延長線上なんですが、角さんがイケてるなって思う、雑誌もしくは出版社ってあるのかないのかでいうとどうでしょう。

角: マガジンハウスはやっぱりすごいなって思うんですよ。なぜかっていうと、他の雑誌の真似ではなく、最初からやってるからです。

僕らがいつも言っていたのは、俺達はゲリラであろうと。それが既に世の中にあるものだったとしても、作るものは正規品よりも良い物作るぞっていう考え方なんですよ。

だから、他の出版社からよく言われていました。お願いだからうちのカテゴリに来ないでって。我々が入ってしまうと、そこのクオリティが全部上がってしまうので。そうするとお金が掛かるようになってしまうんですよね。

一番笑ったのは昆虫の本を作った時です。昆虫の世界のクオリティを上げてしまいました (笑)

山野: 写真の撮り方とか、切り口とか、もう図鑑のレベルじゃないみたいな(笑)

角: こんな昆虫図鑑見たことない、というようなものを(笑)

山野: それ欲しいですね!さっきのカテゴリの話なんですけど、こんな質問もありました。『趣味っていうキーワードの中でテーマを選ぶ際、そのテーマはどういう基準で選んでいるんですか』っていう質問です。

角: うちの雑誌はですね、ほぼ全部誰か言い出しっぺがいるんですよ。その人が言い出さないと本にはならない訳ですね。

なので、例えば「今、世の中これが儲かっているらしいぞ、この分野で誰か作れ」っていうことは一切しないんですよね。

逆に、「もしかしたら今この分野はダメかもしれないけれど、でもどうしても、この切り口でやったらいけると思うんですよね」って言う奴が出てくるわけです。そうするとやってみようか、となるわけです。そういうことが多いです。

山野: 「トリコガイド」はどうだったんですか?なぜ「トリコガイド」かと言うと、僕として枻出版の中でもカテゴリーとして捉えるところが広いなと思ったのと、あと少し「ぽくないな」と思っているっていうのがあるんですよね。生意気ですけど。

角: 旅行っていうのは、なくてはならない本だと思うんです。本がこれだけ売れなくなっても、なくてはならないカテゴリのもの。だからどっちかというと主に実用的なものっていうのは、まだまだマーケットがあると思っている。

ただ、テーマにするディスティネーションとしてどこを選ぶかってときに、当たり前のところを選ばない、それがうちらしいかなと思います。

いきなりペルーをやったりとかね。

山野: え?ペルー?一発目でですか?確かにいきなりは行かないですね(笑)まずはハワイからやって欲しい、みたいな。

 

角: あとどこだっけ?東欧圏いったね。クロアチア。

山野: その国の選択は新しくて、革新的ですね…

角: 今気になっているところを選択しています。北欧に関する本を出したときに結構売れたんですよ。マーケットとして小さいかもしれないけど、それしかなかったら売れるんじゃないかっていう。

山野: 今では定着しつつありますが、北欧というテーマはいち早く扱っていたんですか?

角: うちは「北欧スタイル」っていう本と「 スカンジナビアンファニチャーサービス」っていう家具屋をやりました。スカンジナビアって言っとけば北欧ぽいだろうと思って。

山野: たまに雑なときありますね(笑)

角: ここね、音なんですよ。やはり雑誌の名前、お店の名前、音が大事なんですよね。そこに理由はないんですよ。

山野: 「asoview!」って結構気に入っているのですが、どうでしょうか?

角: いや、いいんじゃないでしょうか。僕ね、その「びゅー」っていう濁点がいいんですよ。引っかかるから。

山野: 男の子好きですよね。「ガンダム」とか「ドラゴンボール」とか。

角: そうですね。絶対に濁点入れるんですよ。

山野: 話が脱線してしまいそうなので戻しますが、そういう会社をやってらっしゃって、社員はみんな雑誌のファンであることから始まっていて、金太郎飴のように、どこから見ても一貫性のある企業スタンス、雑誌としてのクオリティが継続できていく。

それは理解できたのですが、御社には沢山の職種の人がいるじゃないですか、カメラマンもいて、工務店の人もいて、コックもいるみたいな。その人達のマネジメント体制ってどうやっているんですか?組織作りはどうしているんでしょうか?

角: みなさんにマネジメント体制大変でしょってよく言われるんですけどね、これがコックでさえ、うちの雑誌が好きで来ているんですよ。

カリフォルニア工務店の代表者の人間もうちの雑誌が好きで来ているんです。だから他のところと比べると、全然楽なんです。

要するに、自分の好きなこと・大事だと思うことをやっている会社に参加したいっていうことがモチベーションの源泉になっている。これが僕ね、一番大きなところだと思う。

山野: 確かに、好きだったらちょっと整ってなくても許せますよね。

角: 愛してるから一緒に作ろうねっていうとみんな「是非やらせてください!」ってなります。

山野: ただ、呪文が解ける人いますよね。

角: 呪文解ける人います。でもその人はご縁がなかったのかなって。

山野: 好きだっていいですね!もう枻出版のアウトプットが好きだ!って言って入ってきてくれる人。

角: 僕ねよく言うのですが、雑誌だけですよ。雑誌・書籍だけ。「愛」がつくのは。

愛読書なんですか?って言うでしょ。でもね、他の物はラジオ・テレビ・インターネットって愛つきますか?

皆さんの世代だとちょっと違うかもしれないけど、我々の近い世代の人からすると、やっぱり雑誌って特別なものだったんですよ。

例えばの話ですが、僕は「ライダースクラブ」100号記念のときに入社したんですね。で、100号記念の何かをやれって言うのが最初のミッションだったんです。

1つ目はイベントでで、もう1つは、100号記念のオリジナルグッズ商品の販売でした。

みなさん「ライダースクラブ」のクオリティが好きだから、それにちゃんと満足できるもの、と考えていって、4万8千円のスタジアムジャンバーを作りました。

ご希望の方がいたら販売しますと。その変わり100号記念なんで、100着限定です。

当時4万8千円のものが売れる訳ないってみんな考えていましたが、僕は絶対売れるって思った。なぜなら読者だったから。だからこれは絶対売れるからやらせてほしいって言ったんですね。

そしたら2日間で100着の注文が来ちゃったんです。まだ葉書の時代です。

ブランドがちゃんと浸透してこの世界が好きだってなったら、雑誌の名前がついているだけで、スタッフと同じジャンパー欲しいぞ、となって、注文してくれるってことなんですよ。

山野: つまりスタッフが憧れになるんですよね。

角: そういうことですね。

山野: は~…皆さん!憧れになりたいですね!ちょっと違う話なんですが、さっき「愛」がつくのは雑誌や書籍だけってお話があったのですが、うちの社員がこの前良いことを言っていたんですよ。それは、「インターネットの景色になりたい」ということでした。

インターネットの会社でいうと、例えば某レシピアプリとか、飲食店のクチコミサイトとか、好きか嫌いかは置いておいて、スマホのホーム画面に、景色のように置かれている状態を作るっていうのは、その愛読書とかに近いのではないかな、勝手ながら思いました。

角: インターネットって便利で、便利さ競争じゃないですか。本当はその便利にプラスで愛する何かがあったらいいのではないかと思います。

山野: そうですよね、そこが編集方式であり、我々の魂の部分です。それを全員が持っていると、我々もファンになってもらえる。

角: 1つそれでいうとね、僕はライディングパーティーっていうサーキットを貸し切ったイベントを30年やってるんですね。

運営は全員社員で、そこに運営会社は使わなかった。なぜなら誰に何を聞かれても「ライダースクラブ」の人間、もしくは枻出版社の社員が全て答えられるっていう風にすると、来た人達ってすごく安心するじゃないですか。

誰に何を話しかけても「ライダースクラブ」の人だって思った方が、そこの仲間になった気がする訳ですよね。

で、今度はライダースクラブの人間を介して参加者同士が知り合いになり、次からは一緒に来るようになるんですよ。すると、それがリピーターになっていく。今はリピーターが9割になっているんです。

山野: なるほど。30年ですか。しかも9割がリピーター。

角: ちょっとしたやり取りの中に愛がなければならないんですよ。

山野: そうですよね。

角: これ僕らがいつも言っているのですが、僕らは発信する側です。お客さんは発信する側ではないのだから、その人達が何を欲しっているのかを深読みしておせっかいしないとダメだよって。

山野: なるほど。おせっかいですよね。編集者に求められる素質なんですか?って聞いたら「おせっかいおばさんです」と。

角: そうです。だって教えたくてしょうがないんですから。「こんなに良い物あったぞ」とか「こんなに素敵だぞ」とかね。

好奇心がたくさんあって、なんか良い物がありそうだったら誰よりも先に行って、教えたくてしょうがない。

要するにね、これが一番編集者として向いている性格と性質です。

山野: これ良かったよ、これ楽しかったよとかを愛を持って伝えてあげるってことなんですね。

角: その代わり、素人が素人にもの教えたら伝わらないんですよ。実は。なので僕らは、僕らのほうがよく知っているからこそ、知らない人に対してこう言ってあげたらいいよねっていうことをちゃんと吟味している。

山野: なるほど。

角: 素人が知ったかぶりして言っていたら、みなさん全く聞く耳を持ってくれない。だからどうせやるんだったら、皆さんもいろんなカテゴリでプロにならないといけない。

山野: そうですよね、遊びの達人にならないといけないですね。

角: そうですね、遊びの達人に。

山野: 質問の中に『元々好きだったカテゴリを担当する場合と、或いは後から好きになる場合、それぞれメリット・デメリットはありますか。』というものがありました。

角: 昔はみんな好きなことしかやりたがらなかった。要するに僕は「NALU」で入って来ましたからオートバイに行けと言われたら辞めますって言うばっかりだった。

なので、人事異動できなかったんですよ。自転車なら自転車で、僕は海好きじゃないから無理ですとか言う人が多かった。

ところがね、段々変わってきたのは、皆スキルが上がるに従って、編集が面白くなってくる。編集が面白くなってくると自分が興味持てるものであれば、違うカテゴリを編集してみたくなるんです。

一つの例で言うと、ある社員が「NALU」っていうサーフィンの雑誌をやっていたんですね。好奇心の塊みたいなやつだから、色んなことに興味がある。こいつがハーレーの本を「NALU」と同じ作り方で出したら、面白いもの作れるんじゃないかなって。

オートバイ編集部にハーレーの本を作らせでも出来上がりが想像できてしまったんですね。

それで、彼に「クラブ・ハーレー」作れって言ったら「分かりました!」って、免許取るところから企画にして、一年後にはレーサーになりましたからね。そのくらいハマっていくんです。

「クラブ・ハーレー」をやっていながらですね、本人がホノルルマラソンに出てみたくなったんですね。そしたら、僕のところにきて「ランニング・スタイル」っていう本をやって良いですか、と聞いてくるんです。

「クラブ・ハーレー」をやりながら、空いてる時間で「ランニング・スタイル」を作ったんです。自分も散々走って満足したら、もうこれはいいと言って、次にやったのがゴルフ雑誌の「EVEN」。やはり、今までと違ったゴルフ雑誌を作った訳です。

そういう人が出てくると、周りは「あ、そういうのありなんだ」って思うわけです。するとラジコンの本を作っていた編集者が「すみません、熱帯魚の本作っていいですか」
とかってなるんです。

山野: 編集によって熱狂した成功体験が、他の領域でも出来るっていう自信になるんですね。

角: そうです。そうすると他もやりたくなるんです。それは好奇心なんですよ。