
ブランド作りとファン作りの原理原則~枻出版社×アソビュー トップ対談レポート~vol.1
REPORT
アソビュー社では月に一度、外部の企業のトップをお招きし、代表の山野と対談を行う「ヤマトーク」を開催しています。
毎回さまざまなテーマで、その企業が歩んできた道、そしてアソビューの社員へのアドバイスをいただき、社員にとってはとても貴重な学びの機会となっています。
今回は、先日当社との資本業務提携を発表した枻(エイ)出版社 代表取締役社長 角(すみ)謙二氏をお招きした際の対談内容を、3部構成の書き起こし形式でレポートします。
アソビュー 代表取締役社長 山野 智久(以下「山野」): 今日は枻(エイ)出版の角社長に来ていただきました!
枻出版社 代表取締役社長 角(すみ)謙二氏(以下「角」): どうも、こんばんは。よろしくお願いします。こんなおっさんです。きっと皆さんのお父さんより年上だと思います。
山野: 今おいくつですか?
角: 今61歳です。
山野: そうなんですね、カッコいいですよね、、(会場に振る)
角: 気がついたらね、61歳になってました。ただ、日々が若いやつらと付き合ってるから、自分が61歳だという意識は全くないです。
なので、十分みなさんの話にはついていけると思ってますんで、よろしくお願い致します。
山野: ありがとうございます。
(拍手)
山野: それではさっそく進めていきたいと思うんですけど、角さんの口から枻出版ってどんな会社なのか一部ご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
角: あの、一番難しい質問なんですよね。枻出版ってなんなんですかって。
言ってみればですね、「好きなことしかしてない会社」。
これね、皆さんから羨ましいって言われます。
でも、僕らはどちらかというと好きなことじゃないと仕事をしない奴らの集団なんですね。
だからビジネスとして何かやってますよっていうような人達の集団ではない。
大体仕事しながらですね、短パンにビーサンであったりですね、いないでしょ?普通の会社は。
山野: うちも結構そうです(笑)
角: 似たようなもんか(笑)ただ、パッと見てですね、モヒカンいないですもんね。
枻出版にはモヒカンいますからね。でもそういう人もね、何て言うかというと「毛も抜ける想いで頑張ってるんですよ」って言いますね。
山野:(笑)とはいえ仕事って大変なものもあるじゃないですか、もちろん。好きなことしかしないって言うのは、カテゴリーの話ですか?それともテーマの話ですか?
角: そうですね、好きだというテーマしかやらない。
山野: なるほど。
角: そうすると、普通だったら大変なんだけど、好きなことだったらやらざるを得ないこともあるんですよね。
逆に言うと、好きだからあんまり苦だと思っていない。
それが苦しいと思ったら、きっと会社辞めていくんですよね。
好きなことで、それをいかにビジネスにするかっていうことだけで、ここまでやって来たんです。
そもそもは「ライダーズクラブ」っていう、カメラマンとデザイナーが中心になって作った雑誌が始まりなんですね。
その当時っていうのが、要は子供用・若者向けの雑誌しかなかった。
例えば、「月刊オートバイ」とかね、月刊「モーターサイクリニスト」とかね。
対象とする読者が、おそらく中学生~高校生。
ですから今でいう漫画雑誌みたいな、モノクロの内容が多い雑誌だったんです。
そこに普段は、カタログとかを作ってるデザイナーがカメラマンと一緒になって、最初から普通のA4より広い、ワイドな雑誌を一番最初に作ったんです。
デザイナーとして他にはないものを作りたい、ということと、堂々と新幹線の中でビジネスマンが読める本を作りたい。と言っていました。
この2つがコンセプトだった。
だから、子供達じゃなくて自分達のオートバイの趣味がこんなに素敵なんだぞっていうことをみんなに知ってほしかった。
ですから、大人が堂々と新幹線で読める、「こんなのまだ読んでるの?」って言われないような雑誌を作るっていうのがコンセプトだった。
山野: それは今でも継続しているのですか?
角: 今でも継続しています。
雑誌といえば中綴じの時代でしたが、平綴じにして、4色のカラーページを多くし、紙もカタログで使うような紙を使った雑誌にしました。その代わり、定価は当時では高い700円でした。
要は、そのくらいの金額でないと、できないような内容で作っていたんですよ。
だからはじめから、好きなことやってますけど、無理なことやってるんです。
これをどうやってビジネスにするかっていうところで、始まった会社です。

山野: 今日のテーマは恐らく2点だとおもっています。①ブランド作りと②ファン作りです。
様々な雑誌がある中で、枻出版「っぽさ」って絶対あるなと思っていて、じゃあ、その「っぽさ」って何から生まれるの?っていうところと、それを様々な雑誌にまたがったときに、どうやって編集して、読者とのリレーションシップを深めていけるの?っていうのが、おそらく我々の学びになるなと思っています。
角: 長くなりますよ(笑)
山野: (笑)いや、ここはもの凄く教えていただきたい!
角: 今言っていた話がすごく重要だと思っていて、言葉として枻出版「っぽさ」ってこれなんですよ!っていうものはないです。それを言語化しているものはない。
ただ、あるとしたら、今までなかったような、同じオートバイの雑誌でも他では作ってなかったものを作るとかね。
尚かつ、そこに対象とするものが子供じゃなくて、初めから大人とかね。
例えば、自転車雑誌の「バイシクルクラブ」。これ今でも残ってます。「ライダースクラブ」と「バイシクルクラブ」。
で、それを見てた人がじゃあ今度ウィンドサーフィンで作りたいって作ったのが、「ウィンドサーフクラブ」。これ実はもう今ないです。我々としては非常に悲しいですが。
当時、僕がこの会社に入ったときにはクラブの3誌だった。
だから自ずとレストランを始めてやるときは用賀「クラブ」になった。
山野: なるほど。角さんが入社されたのは創業ではなかったんですよね?
角: はい、僕は創業の入社ではなかったです。僕は実は出向社員だった。出向社員が社長になった。これ変な話でしょ(笑)
もともと「ライダースクラブ」はデザイナーとカメラマンが始めた雑誌だと話しましたが、彼らは経営が得意な訳ではなく、編集長としては、世界グランプリライダーだった人が入ってきました。その世界ではもの凄く有名で、尚かつそれを文章にできるっていうことで有名だった。
ところが彼もビジネスに長けていた訳ではなく、編集長に就任してから1年ほどでその本は破綻しそうになっていた。
要するに雑誌は作れる、カッコイイものは作れる、素敵な物は素敵と言えるけれど、それをビジネスにすることは上手じゃないっていう人達がクリエイターになることが多い。
山野: 今のお話を聞くと、クリエイターの中にクリエイターが入っていたという認識であっていますか?
角: 全くそうです。
山野: そうですよね。じゃあ事業できないからって事業できる人を呼んだけど、その人もやはりクリエイターだったということですね。
角: そうです。自分でチーム運営をしてたから、きっと経営も出来るだろうと思っていたんです。でもやはりそちら側ではなかった。
山野: なるほど。そこで角さんが登場した訳ですね。
角: 僕はそのとき世界グランプリチームのマネジメントの会社に勤めていました。日本人で唯一世界チャンピオンになったライダーのマネジメント会社で、日本からヨーロッパに行く人達をアシストしていた。
それを見ていた当時の編集長が、僕を出向させてほしいと言ってきたんですね。
元々雑誌の経験もないですし、どうかなぁと思ったんですが、僕にとって一番大事だったのは、実はライダーズクラブという雑誌が学生時代一番好きな雑誌だった。
それこそオートバイに乗って都内の書店を周って一番綺麗な雑誌ないかなって探して選ぶくらい好きな雑誌だったんですね。
まさかその大好きなライダーズクラブに来いって言われるなんで思ってないですから、
それなら行ってもいいかなと、ある意味運命的な流れがあって枻出版社に来ました。
そうすると、いわゆるクリエイターだらけですよ。全く経営にはなっていない訳ですよね。
僕はどちらかと言うとマネジメント側にいましたから、どうやってビジネスにするかということは常に考えていたんです。なので、ビジネス的な観点から、色々と意見を言っていました。
そうすると諸先輩方にですね、「お前にクリエイティブの何が分かるんだ」ってボロクソに言われる訳ですね。
お言葉ですが、クリエイティブと言っても…と言いながら、クリエイティブが分からない側で、どっちかというとお金勘定をしていた。
最初から間尺に合っていない雑誌作りしているケースもありました。どうやったって儲からないことしてるんです。
こんなことやったって読者は喜ぶかもしれないですが、私達苦しいだけですよと。
というような会話をよくしたのを覚えてます。
山野: 僕実は、今まで何回も角さんにお会いさせていただいて、いつも枻出版のブランドってどうやってできるのかと聞いていて、それは説明できないんだよと言われていたと思うんですが、今日整理できた気がします。
キーワードがあって、新しいことをとにかくやること。斬新で革新的で、クリエイティブなことをやること。そして、大人の男性がターゲットであること。
「クリエイティブである」ということが脈々と受け継がれているんだなと思ったんですけど、質問してもそう答えてくれなかったじゃないですか。
角: だから、それが当たり前のことだから。
山野: なるほど。それどうなんですか?中にいる人は?
原(枻出版社社員(アソビューに出向中)):おそらく枻出版社って枻出版社のファンばっかりなんですよ。僕もNALUっていう雑誌があってそれに惹かれて入って、人生変わった訳なんですが、今のそのクリエイティブっていうところはみんな恐らくベースとして持っている。確かに言われても、パッと出てこないかも。当たり前だから。
山野: それがさっき仰っていた、みんな知ってて好きで入ってくるからってことなんですね。だから説明しなくても、なんか我々がやりたいっておもうことをファンとして体験しちゃってるってことなんですね。
角:そう、だから例えば、AとBっていう雑誌があって、どっちが好き?って聞いたら、全員Aって言うんですよ。
だから、枻出版社が様々なカテゴリの雑誌を作っていくと、気がついたら家の本棚が枻出版社のマークだらけになっちゃったよって言う人がいるわけです。
逆に言うと、読まない人は全然読まない。でもね、それでいいと思うんです。我々のトーンが好きな人達が読んでくれれば。
山野: トーンってどこに受けるんでしたっけ。
角: うちの雑誌はよく城南地区だねって言われるんです。大阪じゃ売れないよ、だけど神戸だと売れるかもしれないねってことをよく言われるんですね。
僕らそんなつもりで雑誌を作っていなくて、自分達の価値観でこれがカッコイイよね、これが素敵だよね。っていうように作ってたものが、周りからもそう見られてるんだなって知った。
山野: そのなんとなくカッコいいイメージは共通していても、それを表現するスキルを持っていない人っていると思います。
AとBで比べたらAの方がカッコいいって言えるんだけど、Aができるかと言われたらできない人もいるんだろなって思っていて、どうやったらそれができるようになるんですか?
角: そのために、デザイナーが全員社内にいて、社内カメラマンがいるわけですね。で、社内カメラマンが、自分達のクオリティはここにあるんだっていうのを、黙ってても表現してくれる。
例えば、写真を撮るんだったら、撮影環境が縛られることもあるんですが、このクオリティじゃうちの雑誌に載せられないでしょ、っていうのがカメラマンの中にあるんですよね。
で、デザイナーは70人くらいいて、自分達のデザインってこういうものだ、っていうのがある。
デザイナーって基本的に素敵なものを作りたいんですよね。で、編集長達と話しながら、自分たちの「素敵なもの」ってこうゆうことなんだってことが、みんな分かってる。
極論言うと新卒がデザインを発注しても、デザイナーがカッコいいもの作ってきちゃうわけです。で、自然と編集者は「こういうもんなんだな」っていう風に覚えていきます。
山野: 新卒のデザイナーはそのカッコいいデザインの共通認識をどうやって持つのでしょうか。
角: ちゃんとした教育システムがあります。
山野: そこはシステム化されてるんですね!
角: はい、システム化しています。
チームで動いていますから、そのチームのリーダーがいて、そのリーダーを補佐する人がいて、そこから、教育が下に落ちていき形になるまで、ちゃんとチェックをしてくれています。
山野: チェック機能があるんですね。その人に打ち返されたら、これはダメなんだって分かっていくってことですね。そういうシステムですね。
角: そうそう。そこが逆にいうとデザイナーとしては自分達から出ていくもののクオリティは保証してくれています。
山野: なるほど。カメラのクリエイティブとデザインのクリエイティブはチームがあって、その中で脈々と動いていくんですね。
それは分かったのですが、編集視点は言語かされているのでしょうか。
角: されていないです。そもそもが「ライダーズクラブ」から始まっていて、「ライダーズクラブ」の写真の撮り方とか、「ライダーズクラブ」の見せ方とかって言うものからスタートしているから、自転車もそのような見せ方をする訳です。
でね、カッコよすぎると、それはそれで売れないんですよ。だけど出来るだけカッコいいものを作りたいんですよね。俺たちこの世界が好きなんだよっていう。
要するに自分たちの好きな世界だからどうやってそれを素敵に見せたいかっていうのが、みんな共通なんです。